作品詳細
第二次世界大戦末期、租界という治外法権が存在し“魔都”とも称された都市・上海を舞台に、「蘇州夜曲」や「別れのブルース」などを作曲した新進気鋭の作曲家・服部良一(松下洸平)を中心に、「夜来香」の作曲家・黎錦光(れいきんこう=白洲迅)や、絶世の歌姫・李香蘭(りこうらん=木下晴香)など様々な人々が音楽を通じて絆を結び、人種やイデオロギーの壁を乗り越えコンサートを開催しようとした、葛藤と夢を描くドラマティックな群像劇。
演出は、華やかさの中に毒を含む独特な演出で多彩な作品を生み出し、演劇ファンの信頼も厚い演出家・河原雅彦が、2017年に上演した音楽劇「魔都夜曲」に続き、上海歴史劇に挑む。音楽もまた「魔都夜曲」に続き、J-POP屈指のプロデューサー・作曲家の本間昭光が担当し、至極の服部メロディーをはじめ、オリジナル曲も加えた、エンターテイメント性豊かな日本オリジナルの音楽劇を誕生させている。
キャストには、松下洸平、白洲迅、木下晴香、山西惇、山内圭哉、壮一帆、上山竜治、夢咲ねね、仙名彩世といった、映像、ミュージカル、ストレートプレイ、様々な分野で活躍する華やかさと実力を兼ね備えたキャストが一堂に会した。
※本編終了後に松下洸平のインタビューも放送!
【ストーリー】
1945年、日本で人気作家であった服部良一は軍から招集を受け、上海に渡っていた。そこでは、中国人作曲家・黎錦光や人気女優で歌手でもある李香蘭と知り合い、ついには、とある人物の計らいで彼らを中心に人種や思想を超えた人々が集まり、大規模な西洋式コンサートを開催する計画が持ち上がる。しかし、そのコンサートの実現には、日本軍や中国国内の政治勢力、また上海の裏社会の思惑が絡み合い、多くの困難が待ち受けていたのだった。
(2022年3月12日~3月27日 東京・Bunkamuraシアターコクーンほか)
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INTERVIEW
木下晴香さん インタビュー
「音楽が持つ力や強さを、この作品を通して感じていただけたら」
第二次世界大戦末期の上海を舞台に、人種やイデオロギーの壁を乗り越え、音楽で絆を結んだ音楽家たちの姿を描いた音楽劇『夜来香ラプソディ』。松下洸平さん演じる服部良一を主人公にしたこの作品で木下晴香さんは稀代のスター・李香蘭を好演。衛星劇場での放送を前に、改めて公演の思い出を振り返っていただきました。
●今作では李香蘭役を演じましたが、オファーがあった時の気持ちをお聞かせください。
「出演のお話しをいただいた時は彼女についてそこまで詳しいわけではなく、それでも、日本や中国を中心に、世界で活躍した歌姫というイメージがあったこともあり、まず“本当に私でよろしいのでしょうか……?”と思ったのが最初の正直な気持ちです(笑)。その後、李香蘭さんの人生を知っていくなかで彼女の強さを知り、そこはこの舞台でも大事にしていきたいなと思いました。その一方で、今回の舞台では彼女の素の部分と言いますか、普段の様子もフィーチャーされています。演出の河原(雅彦)さんからも、「ステージに立ってかっこよくパフォーマンスをしている姿にとらわれ過ぎずに役を作っていこう」とおっしゃってくださいましたので、彼女の芯の部分は大切にしつつ、この作品のなかで生きている李香蘭の姿というものを意識していきました」
●今作はミュージカルとは異なり、音楽劇でした。木下さんにとっては初挑戦だったと思いますが、実際にやってみていかがでしたか?
「普段のミュージカルだと“お芝居と地続きでありたいな”と思いながら歌を表現しているのですが、今回の音楽劇ではそれぞれの楽曲を一つのパフォーマンスとして歌っていたところがあります。また、物語自体が「音楽会『夜来香ラプソディ』」を開催するという展開になっていますので、お芝居を観にこられたお客さんに向けて、本当に音楽会をお見せしているような感覚にもなれて。それが私にとってはとても新鮮でしたし、会場の雰囲気も含めて、うまく切り替えながら歌えたように思います」
●物語の冒頭では服部良一役の松下洸平さんともハモっていらっしゃいましたね。松下さんの歌声の魅力はどんなところだと感じましたか?
「何なんでしょうね、あの素敵な歌声は!(笑) 私、大好きなんです。優しさや温もりがありながら、深みと艶っぽさもあって。歌稽古で初めて声を重ねた時もすごくワクワクしました。ハモらせてもらったフレーズはそれほど多くなかったのですが、本番でも毎回そのパートが楽しくて、“もっと一緒に歌いたい!”と思っていました。本当に素敵なシーンですので、ぜひ放送を録画して、何度も聴いていただけたらと思います!」
●今作ではその服部良一と李香蘭、そして白洲迅さんが演じられた黎錦光の3人が物語を大きく動かしていきますが、木下さんから見た3人はどのような関係性だったと感じていますか?
「李香蘭から見ると、やはりお二人は音楽や歌の“先生”なんだと思います。ただ、3人とも自分の命を顧みず音楽を愛している。そうした音楽への想いは同じくらいの熱量を持っていて、だからこそ通じ合っていたのかなと感じます。作曲家とその曲の歌い手という関係性だけではない、それ以上の絆や運命的なものを持っている3人だなと強く思いました」
●タイトルにもある「夜来香」は李香蘭の代表曲です。実際に歌ってみていかがでしたか?
「舞台の前半と後半で2度、歌う機会があったのですが、後半は彼女が“李香蘭”として生きてきたことをすべて捨てる覚悟で歌っているんです。ですから、彼女のそれまでの半生に思いを馳せるように歌わせていただきました。ステージ上には松下さん演じる服部先生と白洲さん演じる黎先生もいてくださり、そうしたなかで歌うシーンでもありましたので、皆さんからパワーをもらえたような気持ちにもなりましたね。もちろん、楽曲自体もとてもメロディーが美しくて。難しさもあるんですが、公演を重ねて歌い慣れていくにつれて、どんどんと気持ちよさを感じられるようになりました」
●そのほかにもいろんな楽曲が登場しますが、印象的だった曲を挙げていただくと?
「え〜、これは迷いますね(笑)。そうですね……初めて聞いたときに、いい意味で“なんじゃ、こりゃ?”と思ったのは「タリナイ・ソング」でした。みんなと酒場でワイワイと歌ったこともすごく楽しくて印象に残っていますし、歌詞には時代を少し皮肉ったところがあるのですが、それをあんなにも賑やかな曲にしてしまえる服部先生のぶっ飛んだ感覚も(笑)、素敵だなと思いました。今回の服部先生のキャラクター像は稽古を重ねていくなかで、どんどんと愛おしく、でも時には子どものような無邪気さも現れていったのですが、松下さんがある日、「こんなふうになる予定じゃなかったんだけどなぁ」とおっしゃっていたのも面白かったです(笑)」
●そうした楽しさがありながらも、劇中で描かれているのが第二次世界大戦の末期の時代というのも見ていて心が苦しくなります。
「予期せずして公演期間中にウクライナとロシアの戦争が始まり、改めて、決して戦争が過去のものではなくて、今なお続いている地域や国があるのだということを、この作品を通じて実感していました。偶然にも、ウクライナの音楽家の方たちが広場に集まって演奏したというニュースをテレビで見かけ、その様子をみんなとシェアして、作品のなかに感情として落とし込んでいったりもして。そうやって演じながら、“やっぱり音楽が持つ力は戦争をも超えることができると信じたい”と思いましたし、少なくとも信じる気持ちは失いたくないという思いが強くなりました。その意味でも、放送をご覧になる皆さんのなかに、音楽が持つ強さや力が残る作品になっていればいいなと思っています」
▼プロフィール
木下晴香/Haruka Kinoshita
1999年2月5日生まれ、佐賀県出身。2017年、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』のジュリエット役でデビュー。その後も『モーツァルト!』『ファントム』『アナスタシア』など大作に出演。2019年には実写映画『アラジン』のヒロイン・ジャスミン役で吹き替えにも初挑戦した。近年の出演作にミュージカル『王家の紋章』、初のストレートプレイとなった『彼女を笑う人がいても』など。10月29日からはミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』を予定している。
取材・文:倉田モトキ 撮影:宮田浩史 ヘアメイク:三宅茜 スタイリスト:山田安莉沙