明治の兄弟

作品詳細

明治時代の急流のような変転のなかに、官と野に別れた宿命的な兄弟二人をめぐって、可憐な女性お雪の哀切な運命と濃艶なお美津の情熱的な愛情を綾にして、あの若さに満ちた怒涛のような明治政治史の裏を縫いつつ、苦悶と闘争と悲恋を描く。

自由民権の確立を目指して、圧制政治の反抗が実行運動となって現れ始めた明治九年、全国は不平不満の声に溢れ、特に九州各は重大な危局をはらんでいた。東京開成学校の教官、熊本出身の櫻田誠一郎は所属する熊本民権党が各地の不平党に呼応して暴力による反政府運動を展開せんとする状態に立ち到ったのを察し、未然に阻止すべく教職を投げうって西下することになった。弟の銀次郎は若き小警視として警保局に奉職していたが、兄が騒動に巻き込まれる危険を警告して新橋駅に見送った。別れに臨んで誠一郎は婚約のお雪との結婚を銀次郎に依頼する。

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