作品詳細
福永武彦の同名小説を大林宣彦が映画化。16ミリフィルムで全編撮影し、私映画風に仕上げた佳作。
江口は古びた運河の町が火事で焼失したことをニュースで知り、十数年前にその町にひと夏滞在したことを思い出した。大学の卒業論文を書くために親戚の紹介で地元の旧家に泊まり込んでいた。そこで、まだ少女の面影を残す安子と知り合った。その夜、寝つかれぬまま彼は、波の音、櫓の音、そして女のすすり泣きを耳にする。安子と一緒に暮らしているはずの姉・郁代は姿を見せず、義兄・直之と安子のあいだにも何か秘密がありようだった…。ある日、安子と散歩に出かけた江口は、小舟を漕ぐ青年・三郎を紹介される。冷たい一瞥をなげかける三郎。町がすっかり気に入ったという江口に、いつもは快活な安子が「この町はもう死んでいるのよ」と不似合いな暗い微笑を浮かべるのだった…。