舞台「夏の砂の上」

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作品詳細

劇作家・演出家の松田正隆が、自身の生まれ育った長崎を舞台に描き、1999年読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した代表作のひとつ『夏の砂の上』を、現代日本演劇界を代表する演出家・栗山民也が現代に投げかける。

ある地方都市、坂のある街。坂にへばりつく家々は、港を臨む。港には錆びついた造船所。夏の日。
造船所の職を失い、妻・恵子に捨てられた小浦治のもとに、家を出た恵子が現れる。恵子は4歳で亡くなった息子の位牌を引き取りに訪れたのだが、治は薄々、元同僚と恵子の関係に気づいていた。その時、治の妹・阿佐子が16歳の娘・優子と共に東京からやってくる。阿佐子は借金返済のため福岡でスナックを開くと言い、治に優子を押し付けるように預けて出て行ってしまう。治と優子の同居生活が始まる。

(2022年11月3日~11月20日 東京・世田谷パブリックシアター ほか)

※放送の映像は、配信版とは別編集バージョンとなります。
※本編終了後には田中圭、西田尚美、山田杏奈のスペシャルインタビューも放送。

放送スケジュール

撮影:細野晋司

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INTERVIEW

田中圭 インタビュー

 

「言葉の裏の真意を汲み取ると見え方が変わってくる。ぜひ何度も観てほしい作品です」

 

田中圭の最新舞台『夏の砂の上』が早くもテレビ初放送。今作でタッグを組んだのは2019年の『CHIMERICA チャイメリカ』以来、二度目となる演出家・栗山民也。「観る人によって物語の解釈が異なるはず」と話すこの舞台の魅力、そして彼自身のパブリックイメージからかけ離れた治という役についてお話しをうかがいました。

 

●『夏の砂の上』は劇作家・演出家の松田正隆が1999年に読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞した、深淵さのある現代劇でした。最初に戯曲を読んだ時の印象はいかがでしたか?

「演出の栗山さんから戯曲をいただいた時は、「地味なお話だな」と思ったのが正直な感想でした(苦笑)。そもそも、登場人物や物語の背景の説明がほとんどない作品で。僕たち役者はそれぞれに、“こういうことなのかな?”と想像して演じていましたが、それをあえて共有することもしなくって。ただ、確実に感じるのは、長崎の少し寂れた港街が舞台になっていて、根底の部分には原爆を始めとするいろんな深いテーマが流れているということ。でも、それを浮き彫りにするような内容ではなく、その街で生きている人たちの日常を描いているだけですので、僕らも明確な答えを示すようなお芝居をするのではなく、観る人によっていろんな捉え方ができる作品にするのが正解なのかなと思いました」

 

●田中さんが演じた主人公の治も、感情の起伏がほとんどない無気力な男性でした。

「幼い息子を亡くし、妻とも別れ、職も失って……。生きる活力をどこにも見出だせない気持ちは分かるような気がします。ただ、その彼が一体何を思って生きていたのかは、僕自身も最後まで分かりませんでした。理解できなかったという意味ではなく、公演のたびに僕の中で答えが変わっていったんです。舞台は日によって掛け合いのテンポなどが微妙に変化し、そうした違いによって、治として芽生える感情にも変化が生まれていって。今回の台本はこれまで僕が経験してきた舞台に比べて随分とセリフの量が少ないんですが、にもかかわらず、稽古ではよく細かいセリフの間違いをすることが多かったです。それぐらい、演じるたびに役の捉え方に変化があったんだと思います」

 

●ずっと無気力だった治の日常に少しずつ変化をもたらしていったものとして、姪・優子の存在がありました。

「2人の関係性はすごく不思議でした。物語が進むごとにちょっとずつ距離が近づいていき、お互いの中で何かが芽生え、それぞれが抱えていた心の穴を埋めていくんですよね。でも、その“何か”が一体なんなのかは具体的に分からなくて。それに、きっとかけがえのないもののはずなのに、最後には全て消えてしまう。ネタバラシになってしまうので詳しくは言えませんが、ラストシーンのあとは治がどうなってしまうのか、非常に気になりました」

 

●田中さんはどのような“その後”を想像されました?

「これもやはり日によって考え方が変わっていきました。舞台の上演が始まった頃は、きっと治は自死するだろうなと思っていたんです。でも、“いや、そうじゃないな”と考えるようになり、今はまた一周回って、やっぱり死ぬのかなって思ってます(苦笑)。興味深かったのが、戯曲にあり栗山さんも演出として入れたラストシーンの光。あの光の意味をどう解釈するかによって、観劇後の印象が大きく変わっていくんだろうなと思いました」

 

●一方、演出の栗山民也さんとは2019年の『CHIMERICA チャイメリカ』以来、二度目のタッグとなりました。3年ぶりに演出を受けて、新たな発見などはありましたか?

「『CHIMERICA チャイメリカ』でご一緒した時は、上手く言葉で説明ができないものの、“また一緒にやりたい”という気持ちが強く残ったんです。そうしたら、こんなにも早く実現して。決まった時はすごく嬉しかったです。また、今回改めて感じたのですが、栗山さんって、最終的な判断をいつも役者に託してくれるんです。もちろん、具体的な指示や演出を出してはくださるのですが、“こうしてほしい”と決めつけることはなくって。反対に、役者が悩んでいたりとすると、何気ない会話の中にヒントを盛り込んで、役者に “なるほど、そういうセリフの捉え方もあるのか”と、何通りも答えがあることを気づかせてくれる。ですから、毎日の稽古がすごく刺激的でした。公演が始まってしまうとあまり劇場にはいらっしゃらず、“あとは役者だけで作品を育ててください”というスタンスを取られるのも潔いなと思いますし。ただ、だからこそ、たまに劇場でお見かけすると僕らもテンションが上がってました(笑)。終演後も何かしらダメ出しをもらえないかと、栗山さんの部屋の前をみんなウロウロしていました(笑)」

 

●最後に、放送をご覧になられる方にメッセージをお願いします。

「この作品は何気ないセリフがすべて伏線になっています。にも関わらず、セリフそのものがあまり重要ではないんです。どういうことかというと、会話のあいだに流れる“間”の緊張感であったり、言葉の裏にある本当の思いが物語をより深いものにしている。何度も見返すことで、“こういうことだったのか”と気づくことがたくさんありますし、できれば繰り返しご覧いただけると、より楽しめると思います。また、僕らがこの舞台を作る上で共通認識として持っていたのは“乾き”でした。放送を観ながら喉が渇くような気持ちになってくれたら成功だと思っていますので(笑)、そうしたことも頭の片隅に置いて観ていただけると嬉しいです」

 

 

▼プロフィール
田中圭/Kei Tanaka
1984年7月10日生まれ、東京都出身。2003年、ドラマ『WATER BOYS』で一躍脚光を浴びる。近年の主演映画に『ハウ』『女子高生に殺されたい』など。4月より高畑充希とW主演ドラマ『unknown』が放送予定。

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