プラカーンは病院内で実力のある優秀な外科医の1人。彼は“トゥアピー”と呼んでいる死神を見ることができる不思議な力があった。トゥアピーはどこからともなく手術室に現れると、手術中の患者のそばに立つ。それはもう患者が助からないことを意味していた。人の命を助けたいプラカーンにとってトゥアピーは最も会いたくない存在。しかし、トゥアピーがプラカーンの隣の家に引っ越してきたことをきっかけに、2人の距離はだんだんと近づいていく…。
細やかな演出と心を鷲掴みにする映像美が堪能できる一作。プロデューサーには、監督としてドラマを通し多くの人々の心を掴んできたシワット・サワットマニークン氏が参加。また、監督にはこれまでBL作品に携わってきたパデート・オンラフーンをはじめ、「My Gear And Your Gown」の脚本を担当したクスリン・メークウィパートとペンパン・ホームチャンが再びタッグを組むなど、期待感は高まるばかり!
メインキャストであるプラカーン役のナットことナチャポン・ラッタナモンコンと、トゥアピー役のカーンことカシデート・ホンラダーロムは、2016年に公開されたオムニバスドラマ「Views of Love」の1エピソードである「Grey Rainbow」で共演。タイ国内で今のようにはBLドラマが制作されていなかった当時、LGBT作品の1つとして世に送り出され反響を呼んだ。そんな彼らの本作への出演が発表された当初大きな話題となり、満を持しての再共演に喜びの声も。劇中では落ち着いた大人の雰囲気をまとい、お互いに相容れない医者と死神という難しい役柄ながらも息の合った演技を披露している!
白衣をまとい生に執着する医者のプラカーンと、ブラックスーツをまとい死者を旅立たせる死神のトゥアピー。病院のシステム改良のために地位を求めるプラカーンと、彼に勝ちたいがために地位に固執しているかのようなメーター。人あたりがよく患者思いのキータと、協調性に欠け人を見下しがちに見えるナティー。生き方や性格が正反対といえるキャラクターたちがぶつかり合い、理解し合い、影響を与え合っていく。全キャラクターが欠かせない存在感を放ち、個性が際立つ描写は秀逸。
プラカーンは「疲れを癒やす」と言って、“甘さ半分”のミルクティーを名前入りマイボトルに入れて持ち歩く。レモンチーズケーキ、クイッティアオ(麺料理)にバーベキューも好物で、トゥアピーと2人で味わう時間にはあたたかい空気が流れ、急速に距離が縮まることも。けれど2人にとっては食べ物ひとつにも共有する記憶がつまっており、トゥアピーやプラカーンが思い返す度に視聴者は切なさを感じることだろう。まさに“甘さ半分”といったシーンが続出し、甘さと苦さのバランスがクセになるはず。
外科医としての確かな腕と真摯な人柄で、仲間や患者からの信頼が厚いプラカーンだが、ウィーラヌットが「口数も多いし言葉遣いも悪い」と言うように親しい相手にはくだけた面も見せる。さらにイタズラ好きで、好意を寄せられているキータに「ニコッ」と音が聞こえそうな笑顔を向けるなど、少年性と大人の両面の魅力を持つ。しかし本気の怒りや哀しみという強い感情をぶつけるのも、それ以上に糖度の高い笑顔を向けるのも、トゥアピーにだけなのだ。
ブラックスーツ姿の死神という“職業”によって、ミステリアスすぎるトゥアピー。人間の姿になるとアロハシャツを着ているギャップや、厳しい言葉を投げるプラカーンに妖艶な微笑を添えて疑問形や質問で返すところも、拍車をかけている。ただしその微笑はプラカーンへの伝えられない喜怒哀楽を封じ込めたものであり、時には自分さえごまかしていることも……。プラカーンとのやりとりが増えるごとにトゥアピーの複雑さが露見し、“人間”らしさという魅力が浮き彫りになる。
「死」を身近に感じているプラカーンら医師たちだが、タイでは輪廻転生の考えが深く浸透している。死神のトゥアピーも死者に「旅立ち」を告げ、まるで先に続く道があると示唆しているようだ。そんなプラカーンとトゥアピーが「約束」するたびに2人の間には「幸せ」が生まれるものの、同時に「医者と死神は会わないほうが幸せ」という疑念が生まれてしまう。生死そのものについてはもちろん、生があるうちに得られる「幸せとは何か」を考えさせられる。
盟友だったはずが、外科部長の座をめぐり対立関係になるプラカーンとメーター。どちらも頑固なうえメーターは何かと突っかかるため、2人と付き合いが長いウィーラヌットは、遠慮なく叱りつけて仲を取り持とうとする。新人医師ながら傍若無人のナティーに、キータは「ガキ」と思いつつチーム医療に大切なことを伝えていく。そして死神のケードは、人間界ではアロハシャツ姿で軽妙に振る舞っているように見えて、プラカーンたち人間を俯瞰し、トゥアピーにさまざまな教えをもたらす。人を思いやるウィーラヌットとキータ、多くの死を見てきただろうケードの言葉は、心を動かされるものがある。