この度、放送としては過去最大規模となる「美空ひばり特集」を組んでいただきますことに心より感謝申し上げます。
　美空ひばりは戦後日本の夜明けと共に数々の松竹映画で、不遇な中でも明るく逞しく生きる子供の役どころを演じ、観る人々の希望となり、日本の焦土からの復興を後押しました。
　また遠く海を渡り、移民として苦労を重ね、終戦後は焦土と化した祖国に胸を痛める日系人の皆さんの心にも明るい日本の未来に希望の灯りを灯したのです。そしてそれは今でも、映画「悲しき口笛」の大ヒットにより、美空ひばりと川田晴久さん、ハワイ松竹楽団で行った10数回に及ぶハワイ公演の収益で建設された、日系人部隊第100大隊のメモリアルホールはご遺族たちの情報発信やコミュニティースペースでもあり過去の歴史を伝える要所となっています。またこのチャリティー公演で戦後初のアメリカロケとなる「東京キッド」もホノルルで撮影され、そのままアメリカ本土西海岸での１ヶ月に及ぶチャリティー公演に出発するのでした。
　こうして母の芸能生活は始まり、昭和日本と呼応するように復興、経済成長、成熟期へと常に人の心に灯りを灯す歌と芝居を届け、昭和の終わりと共にまるで役目を終えたかのように天に帰って行きました。
そんな美空ひばりの人生を、初期の映画の名作と、昭和の高度経済成長の息遣いが聞こえそうなニュースソース、節目節目で行なっていた記念コンサートや伝説となった東京ドームこけら落とし「不死鳥コンサート」で網羅するこの特集を是非ご覧いただけましたら幸いです。
　最後に特筆すべきは、1970年にブラジルで行ったコンサートの模様（全28曲）がデジタルリマスターを経て初の完全放送でお送りできることです。日々多忙なスケジュールの都合で、耳に入れられていなかったブラジルからのオファーを知った時、「私の歌を聞きたい人がいれば、私はどこまでも行きます。特にブラジルにはご苦労をしたお年寄りが待っているのです。すぐにスケジュールを空けてください！」と珍しく声を荒げたというのは、当時のスタッフから語り草となっています。そんな子供の頃からずっと変わらない、美空ひばりの心がよく表れている「ブラジル公演」をどうぞお楽しみにしてください。
　いつも母を応援してくださる皆さまに感謝し、ご挨拶とさせていただきます。