大阪きっての紙問屋、亀屋の息子伊之助は、小さいころから何不自由なく育ち、金の有難みが皆目わかっていません。昨日は曽根崎、今日は新町、明日は堀江と毎日毎日芸者を総揚げしての放蕩三昧。とうとう見るに見かねた父親は伊之助を勘当してしまいます。 伊之助が転がり込んだ先は、亀屋に出入りしている大工の棟梁辰五郎の家でした。亀屋には親の代から世話になり、ひとかたならぬ恩義を感じている辰五郎は気持ちよく伊之助を迎えますが、なかなかやみそうにない伊之助の放蕩三昧にさすがの辰五郎も呆れ顔です。
そんなある日、伊之助にとっては義理の母、後妻のおよねが辰五郎を訪ねてきました。およねの話によれば、「贅沢罷りならぬ」のお布令により、上質紙の売れ行きが落ちて、老舗を誇る亀屋の身代も五百両の金がなければ、のれんを降ろさなくてはならないところまで来ていて、伊之助の父親もこれを苦に、病の床につく有様でした。
しかし、そんなこととは露知らぬ伊之助は、困っている人に出会う度に、人の難儀や人の命が金で助かるならと、次々と金と引き換えに人を助けていきます。
ところが、世の中を甘くみていた伊之助の身の上に、初めて金の尊さ、金の有難みが分かる時がやって来たのです。それは何の気なしに買った一枚の富札で……。