盛り場をちょっと過ぎたあたりの裏町に、道を隔てて向かい合ったクリーニング店と、炭屋がありました。このクリーニング店の倉橋さんと、炭屋の宇部さんはこの界隈で知らぬ人はいないほどの喧嘩友達です。ことに倉橋さんは親の代から受け継いで喧嘩相手を勤めているだけに、負けたとあっては死んだ父親に申し訳が立たないと連日の口喧嘩にも力が入ります。宇部さんも若造になめられてたまるかとばかりに威勢よく喧嘩の相手を勤めているものの実は店の内情は火の車。喧嘩の際には金が有り余って困ると海外旅行に行くとか大きなことを言っていますが、時代の遅れの炭屋の商売を細々とやってきたものの、一人息子を長い入院生活の末に亡くした上、借金の保証人になってその肩代わりをしなければならない羽目になっていたのです。 しかもそこへ娘の妙子さんが嫁ぎ先から逃げて帰ってくるという事件が起こります。そのため嫁ぎ先から借りていた大金を返さなくてはならないことになってしまい、長年住み慣れた家を売る決心をすることに...。
人からこの事を聞いた倉橋さんは長年の喧嘩相手だけに放ってはおけません。宇部さんに知られないようにそっとそのお金を工面しようとしたのです。しかし、この「そっと」が上手くいかず、又二人の間には激しい口喧嘩が始まってしまいます。さてこの結末は...?