自分の生まれた故郷も、父親も母親も、もちろん自分の名前も知らない天涯孤独の青年スモッグ。仲間や友達はそのボーッとしてつかみどころのない風貌から、夜明けのスモッグと妙な名前で呼び、スモッグもまた人の呼ぶこの名を自分の名前だと信じていました。そのスモッグが、ふとしたことから知り合った広島健次という青年と親しくなって、天涯孤独の身と似通った境遇に、好意を寄せ合うようになったのです。 広島健次は、早くに母を亡くし、祖母の手で育てられたのですが、その祖母も亡くなり、戸籍謄本を唯一の手がかりに、行方の知れない、いまだ見ぬ父を探しながら懸命に働いていました。健次とは対照的に、働きもしないで、気随気儘に生きている自由人、スモッグ。
ある日、スモッグは、健次が落とした戸籍謄本を拾ったのです。偶然スモッグと言葉を交わすことになった実業家の福田健作は、その戸籍謄本を見てびっくり仰天。目の色を変えて、「お前の母は……おばあちゃんは……お前の名は……」と矢継ぎ早に尋ねる福田に、スモッグは、日頃から暗唱するほど聞かされていた健次の生い立ちを我がことのように語り、ついには「私の名前は広島健次というのです」と調子に乗って言ってしまったのです。
実は、福田健作こそ健次の父親で、健作の方も健次のことを探し求めていました。
スモッグを健次と勘違いした健作は、家に連れ帰り、今までの罪の償いとして、できる限りの愛情をそそぐつもりだったのです。健次と健作、そしてスモッグの運命は一体どうなるのでしょう……。